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東京地方裁判所 平成元年(ワ)333号 判決

本訴原告・反訴被告 株式会社信和エステート

右代表者代表取締役 河合和昭

右訴訟代理人弁護士 河崎光成

同 小林政秀

本訴被告・反訴原告 セブンスターマンション原宿管理組合

右代表者理事長 竹村俊夫

本訴被告 佐藤雅巳

本訴被告 水嶋幸一

右三名訴訟代理人弁護士 那須克己

主文

一  本訴原告と本訴被告らとの間で、別紙物件目録記載(三)の土地について、本訴原告が専用使用権を有していることを確認する。

二  本訴原告のその他の本訴請求を棄却する。

三  反訴被告は、別紙物件目録記載(二)の建物を、住宅以外の用途に使用してはならない。

四  反訴原告のその他の反訴請求を棄却する。

五  訴訟費用は、本訴原告・反訴被告と本訴被告・反訴原告との間では、本訴・反訴を通じて、それぞれに生じた費用を各自の負担とし、本訴原告と本訴被告佐藤雅巳及び本訴被告水嶋幸一との間では、右本訴被告両名に生じた費用の二分の一を本訴原告の負担とし、その他は各自の負担とする。

事実

第一当事者の請求

一  本訴原告の本訴請求

1  原告と被告らとの間で、別紙物件目録記載(二)の建物について、これを飲食店に使用することができないこと以外には使用目的の制限がないことを確認する。

2  原告と被告らとの間で、別紙物件目録記載(二)の建物の単位面積当たりの区分所有権が、同目録記載(一)の建物の他の専有部分の単位面積当たりの区分所有権とその権利義務において同一であることを確認する。

3  主文一項と同じ。

4  被告らは、原告に対し、連帯して昭和六三年六月一九日から右1、3項が確認されるまで一か月一三五万円の割合による金員を支払え。

二  反訴原告の反訴請求

1  (一〇一号室の使用方法についての請求)

(一)主位的請求

(1) 反訴被告は、別紙物件目録記載(二)の建物を駐車場に変更せよ。

(2) 反訴被告は、別紙物件目録記載(二)の建物を、駐車場以外の用途に使用してはならない。

(二)予備的請求

主文三項と同じ。

2  反訴原告と反訴被告との間で、別紙物件目録記載(三)の土地について、反訴被告が専用使用権を有していないことを確認する。

第二当事者の主張

(以下においては、本訴原告・反訴被告株式会社信和エステートを「原告」といい、本訴被告・反訴原告セブンスターマンション原宿管理組合を「被告管理組合」という。また、他の本訴被告らを、「被告佐藤」、「被告水嶋」という。)

一  原告の本訴請求について

1  原告の請求原因

(一)原告は、昭和六三年三月三〇日、別紙物件目録記載(二)の建物(以下「一〇一号室」という。)及び敷地の共有持分を前区分所有者の真拓興産株式会社から買い受けた。

一〇一号室を含む別紙物件目録記載(一)の建物全体は、セブンスターマンション原宿(以下「本件マンション」という。)と称される区分所有建物であり、一〇一号室は専有部分である。

被告管理組合は、本件マンションの管理主体であり、規約を有し、構成員の変更にかかわらず存続する組織的実体を有している権利能力なき社団である。

(二)原始規約(以下「旧規約」という。)においては、専有部分の使用方法の制限については、飲食店としての使用を禁止する規定(一五条)はあったが、それ以外の制限はなかった。

また、原告が所有する一〇一号室の区分所有権と本件マンションの他の区分所有権とは、その権能において差異はない。

(三)別紙物件目録記載(三)の土地(以下「本件共有部分」という。)は、本件マンションの敷地として全区分所有者の共有にかかる部分であるが、旧規約によって一〇一号室の区分所有者の「専用使用権」が認められている。

(四)原告は、一〇一号室の取得後、被告管理組合による住居として以外の使用禁止の通知に始まる被告らの違法な妨害行為によって、全く問題のない店舗使用が妨害され、現実の賃借申入れによる収入の道が塞がれている状況にある。一〇一号室を賃貸すれば、一か月一三五万円の賃貸収入を得ることができる。

(五)よって、原告は、被告らに対し、一〇一号室の使用方法について飲食店等に使用できないことのほかには制限のないこと、一〇一号室の区分所有権と他の区分所有権とが権利義務において同一であること、及び本件共有部分について原告が専用使用権を有していることの確認をそれぞれ求めると共に、不法行為に基づき、請求の趣旨1、3項が確認されるまで連帯して一か月一三五万円の割合による損害金を支払うことを求める。

2  請求原因に対する被告らの認否

(一)(本案前の申立て)

請求の趣旨1、3項の確認の訴えは、被告佐藤及び被告水嶋との関係では、確認の利益がないので、却下されるべきである。

(二)請求原因(一)の事実は認める。

(三)同(二)のうち、専有部分の使用方法について、旧規約上「飲食店等」に使用することができないことは認めるが、その他は否認し争う。旧規約一五条は、専有部分を居住目的以外に使用することを禁じたものであり、「飲食店等」というのは一つの例示に過ぎない。

(四)同(三)のうち、本件共有部分につき旧規約により一〇一号室の区分所有者に専用使用権が認められていることは否認するが、その他の事実は認める。区分所有者は、セブンスターマンション株式会社からこれについて何らの説明を受けていないし、契約時に渡された管理規約には図面が添付されていないものもある(乙一五)。

(五)同(四)は、否認し争う。

3  被告らの主張

(一)事実経過

(1) 一〇一号室は、もと市田弥吉郎が所有していたが、同室は本来本件マンションの居住者向けの駐車場として使用されるべく設計され、現実にも同人は同室を本来の目的どおり本件マンションの居住者に駐車場として賃貸していた。その後、一〇一号室は市田よしに譲渡されたが、同人は昭和五八年頃、同室を勝手に店舗に改造し、店舗兼事務所として賃貸してしまった。

本件マンションの居住者は、一〇一号室の店舗等への改造や現実の使用方法に不満を抱き、個別に抗議はしたものの、実質的な管理組合はなかったので、管理組合として正式に抗議をすることはできなかった。また、管理を委託していた会社の管理も杜撰であったので、居住者は自分たちで管理組合を設立することとし、昭和六一年一〇月二六日に設立総会を開催して被告管理組合を設立した。

(2) 旧規約においても、専有部分を住居以外に使用することは禁止されていたが、これを規約に明記すべきであるということになり、昭和六二年二月一三日に臨時の区分所有者集会を開催して、規約の改正を行った(以下、改正後の規約を「新規約」という。)。

(3) 被告管理組合は、右集会に先立ち、全組合員に対し、集会開催の通知と共に、議案に関連する管理規約・使用細則の改定案等の資料、出欠票、欠席の場合の委任状を送付した。一〇一号室の当時の所有者の株式会社ニューズセレクションは、集会当日に集会議長に一任する旨の委任状を提出したので、当日議長の被告佐藤が同社の代理人として議決権を行使し、新規約は異議なく承認された。

(4) (規約の改正手続の適法性について)

当時の管理者であったセブンスターマンション株式会社及び同社から管理の委託を受けていた昭和建物管理株式会社は、昭和六一年一一月一六日に開かれた管理組合の総会に出席し、今後は管理組合が中心となって本件マンションの管理を行っていくことを承認しており、集会の召集の権限はその段階で管理組合に委譲された。

また、被告管理組合の理事長が集会を召集することは、区分所有者全員の黙示の合意に基づくものであり、理事長が召集した集会は区分所有者集会と認められるべきである。

そうでないとしても、規約改正のための集会開催の通知は、関連資料と共に区分所有者全員に交付され、集会に出席する機会は区分所有者全員に等しく与えられているから、決議の効力に影響を及ぼす瑕疵には当たらない。

(二)一〇一号室の使用方法の制限について

(1) 本件マンションは、一〇一号室を除く他の専有部分だけで建築基準法上許容される容積率一杯に建築されており、一〇一号室を店舗に改造することは同法に著しく違反するものである。よって、同室の店舗への改造は許されない。各区分所有者は、本件マンションの区分所有権を売買契約により取得した際、一〇一号室を建物の建築面積に算入しない状態の区分所有権を契約により取得しているのであり、この権利は各区分所有者の同意なしに奪うことは許されない。

(2) 一〇一号室の改造は、旧規約九条1項(「建物共有部分の変更および敷地利用上の変更・専有部分の外壁の変更は、共有者全員の合意がなければすることができない。」)、当初の「セブンスターマンション原宿使用細則」(以下「旧細則」という。)五条(4) (専有部分の模様替えをするときには、予め理事長に書面により届出をし、書面による承諾を得なければならないとの規定)に違反する。

また、右改造は、旧規約七条7項(「各区分所有者及び占有者は、共有共用部分はもちろん自己の専有部分についても、建物の保存に有害な行為、その他建物の管理または使用に関する共同の利益に反する行為をしてはならない。」)に違反する。一〇一号室を駐車場としてではなく、店舗として使用することは、他の区分所有者の区分所有権の価値を減ずる行為であり、「使用に関する共同の利益に反する行為」に該当する。

さらに、旧規約一五条1項(「各区分所有者はその専有部分を、居住目的以外の飲食店等(レストラン、スナックバー、喫茶店、バー、クラブ、ホテルその他これに類する深夜営業を行うものを含む)に使用することができない。」)は、居住目的以外に使用することができないとの趣旨であり、一〇一号室の店舗への改造は、同条項にも違反する。

(3) 仮に新規約で旧規約になかった制限をしたとしても、規約改正当時の一〇一号室の所有者の株式会社ニューズセレクションは規約の改正につき何ら異議を述べることなく委任状を提出しており、そのような制限を承諾をしたものである。

(三)一〇一号室の権利の性格について

右(二)の(1) に述べたとおり、各区分所有者が取得した区分所有権は、建築面積に一〇一号室を含まない前提で算出されたものであり、各区分所有者は売買契約により右内容の区分所有権を取得しているのである。各区分所有者が取得した権利は、一〇一号室が駐車場から店舗に改造されることによって影響を受けるものではなく、したがって当然のことながら、一〇一号室の区分所有権の性質は、所有者の変更、駐車場から店舗への改造、あるいは容積率の変更により奪われるものではない。

4  被告らの主張に対する原告の反論・主張

(一)規約改正手続の適法性について

被告らは、集会の召集の権限は管理組合に委譲されたと主張する。しかし、区分所有法には管理者の交代以外に権限の委譲などという概念は存在しない。

また、被告らは瑕疵の点に言及しているが、そもそも正規の区分所有者集会が成立していないのに、瑕疵を論ずるのはおかしい。

(二)一〇一号室の使用方法の制限について

(1)建築基準法に関する主張が失当であることは、後記(三)のとおりである。

(2) 原告所有の一〇一号室も、他の区分所有部分と同様に専有部分として位置付けられているから、その専有部分に一定の制約を加えようとする場合には、「建物の使用に関する区分所有者相互間の事項」として、規約に明記することが必要である(区分所有法三〇条、旧区分所有法二三条)。しかるに、旧規約には一〇一号室の使用方法を駐車場に限定する規定は存在しない。

旧規約九条1項にいう「専有部分の外壁」という表現は、外壁自体が共有(共用)部分であることを前提とする表現である。被告らが問題とするシャッターは、専有部分そのものであり、外壁ではない。

旧規約一五条1項は、飲食店及びこれに類する使用のみを禁止する趣旨の規定であると解すべきである。

(3) 一〇一号室は、昭和五八年六月一日以後店舗として利用されており、一度も住居となったことがない。そして、同室は建築時から住居として使用できない形で建築されている。したがって、同室について店舗としての使用を廃止し、住居としての利用に変更するとの承諾を委任内容に含め得る状況にはない。

また、委任状をみると、委任事項としては「議決権を行使すること」としか記載されていない。このような委任状で重大な使用方法の限定を承認したといえないことは明らかである。

(三)一〇一号室の権利の性格について

区分所有法は、あらゆる種類・態様の区分所有建物に適用される。また、取締法規たる建築基準法上の規制は、特段の事情のない限り私人間の法律関係を律する法規としての区分所有法に規制を及ぼしえないというべきである。

被告らは、本件マンションの他の区分所有者が物件購入の段階で一〇一号室の区分所有権とは異なるものとして購入しているものと主張する。しかし、区分所有権は所有権であるから、物権法定主義の適用があり、契約によって所有権の基本的内容・性格を他の所有権とすることはありえない。また、被告らのいうようなことは売買契約に含まれていない(甲一七参照)。

(四)旧規約(乙一)には一〇一号室の専用使用権を表示する図面が添付され、各区分所有者はこの図面を前提にして乙一に自ら署名捺印している。各区分所有者は、当然その図面を認識していたというべきである。また、専用使用権については、売主は法律上これを説明する義務があるから、その説明義務を果たした上、図面が一体となった売買契約書(例えば甲一七)により契約を締結した。各区分所有者はこれを積極的に承認しているのである。

二  被告管理組合の反訴請求について

1  被告管理組合の請求原因

(一)被告管理組合は、本件マンションの区分所有者によって構成され、本件マンションの管理などを行うことを目的とする権利能力なき社団である。

(二)前記一の3(二)(1) 、(2) に述べたとおり、一〇一号室につき駐車場を改造して店舗にすることは、建築基準法の規制に基づき一〇一号室が建築面積に含まれていなかったこと及び旧規約の規定によって禁止されていた。

(三)仮にそうでないとしても、前記一の3(二)(3) に述べたように、規約の改正によって店舗としての使用は禁止されるに至った。規約改正の手続きの適法性については、前記一の3(一)(4) に述べたとおりである。

(四)原告は、本件共有部分について専用使用権を有すると主張するが、前記一の2(四)に述べたとおり、原告は専用使用権を有していない。

(五)よって、被告管理組合は、原告に対し、区分所有法五七条一項に基づき、一〇一号室の使用方法について、主体的に、同室を駐車場の状態に原状回復すること及びこれを駐車場以外の用途に使用してはならないことを求め、予備的に、同室を住宅以外の用途に使用してはならないことを求めると共に、本件共有部分について原告が専用使用権を有していないことの確認を求める。

2  請求原因に対する原告の認否

(一)(本案前の申立て)

被告は本件マンションの管理者ではないし、適法な区分所有者集会の決議を経ていない。したがって、本件反訴は不適法である。

(二)請求原因(一)は否認ないし争う。

(三)同(二)も否認し、争う。この点についての原告の主張は、前記一の4(二)(1) 、(2) に述べたとおりである。

(四)同(三)も否認し、争う。この点についての原告の主張は、前記一の4の(二)(3) のとおりである。

(五)同(四)も争う。

3  原告の主張

本件共有部分には、旧規約によって一〇一号室の区分所有権者に専用使用権が認められている。

第三証拠関係〈省略〉

理由

一  被告佐藤及び被告水嶋に対する本訴請求1~3の確認の利益の有無について

弁論の全趣旨によれば、右被告両名は、本件マンションの区分所有者であり、敷地の共有持分権者であることが認められる。原告の右請求は、右被告両名と同様の区分所有者及び敷地持分権者である原告が、自らの区分所有にかかる一〇一号室の使用目的及びその権利義務の内容について確認を求めるものであるから、右請求には確認の利益があるというべきである。

二  一〇一号室の使用目的及び区分所有権の性質について

原告は、一〇一号室を飲食店等に使用することができないこと以外にはその使用目的に制限がないと主張するのに対し、被告らは、種々の理由を述べて、一〇一号室は駐車場としてしか使用できず、そうでないとしても、住宅としてしか使用することができないと主張するので、以下順次判断する。

1  まず、一〇一号室を飲食店等に使用することができないことは、原告自身が自認するところであるし、旧規約(〈証拠〉)一五条及び新規約(〈証拠〉、なおこの新規約の効力については後に述べる。)一二条に照らしても明らかである。

2  次に被告らは、一〇一号室を駐車場から店舗に改造した行為は建築基準法に違反して許されず、また旧規約上も許されないと主張する。

そこで検討するに、原告は、一〇一号室を区分所有しているが、区分所有権は、物理的に一体不可分のものである一棟の建物の各部分を目的とするという特殊性があるから、一戸建ての建物についての所有権のような所有権の絶対性を貫くことができず、他の区分所有権との関係で本来的に制約を受けざるをえない。すなわち、区分所有者は、区分所有法上も、六条、五七~五九条などの規制に服するほか、専有部分の管理・使用について管理規約の拘束に服するものである(区分所有法三〇条、四六条)。

そこで、一〇一号室が、右の観点からどのような拘束に服するのかが本件の問題である。

3  〈証拠〉によれば、本件マンションが建築された当時の同マンション敷地の容積率は三〇〇パーセントで、建築基準法上の法定許容面積は、一九二六・六三平方メートルであったこと、本件マンションの容積対象床面積(建築面積)は一九二二・五六二平方メートルであるが、これは一〇一号室を除いた他の専有部分(区分所有部分)及び共用部分の合計面積となっていて、一〇一号室は、この容積対象床面積に入っていないこと、一〇一号室は、駐車場とする場合には延床面積の五分の一までは建築することが認められるという特例に基づき建築されたこと、以上の事実が認められる。したがって、本件マンションの建築に当たっては、一〇一号室は駐車場としてしか建築をすることができず、その後平成元年一〇月に本件マンション敷地の容積率が変更される(〈証拠〉)までは、同室は建築基準法上駐車場以外の用途に変更することができない部分であったということになる。

4  次に、原始規約である旧規約上、一〇一号室の使用についてどのような拘束がなされていたのかについて検討する。

(一)旧規約一条の「規約対象物件」である「建物」の面積は、延べ一九二二・五六二平方メートルとされ、この面積は前述の容積対象面積を指すから、形式的には一〇一号室はこの建物に入らないようにもみえる。しかし、同規約二条、三条、四条、一四条を併せ読めば、同室は規約上区分所有の対象である専有部分であるとされていると理解される(同室が専有部分であることは争いがない。)。しかし、先にみたように、一〇一号室は、当時駐車場としてしか建築基準法上建築することができず、建築後も住宅や店舗等にこれを変更することは同法上違法であったこと、また、販売当時同室は駐車場であることを示すパンフレットが顧客に配布され、そしてそれが区分所有者向けのものである旨説明がなされ、分譲後は現実に区分所有者に賃貸されたものと認められること(〈証拠〉)から考えて、旧規約が作成された当時一〇一号室が住宅や店舗に改造されるなどということは、全く予想されなかったと考えられる。そして、旧規約の専有部分に関する規定内容が居住部分を想定した内容となっていること(例えば、七条、八条、一五条、一六条)を併せ考えると、本来、旧規約上は、一〇一号室が店舗等に改造されることは全く予想しておらず、専有部分については一〇一号室を除く他の専有部分を想定して規定されたものと推測される。

しかし、そうではあっても、一〇一号室の使用目的が問題である以上は、旧規約全体の趣旨を合理的に解釈して、一〇一号室について規約上どのような拘束があると解するのが合理的であるのかを判断して、これを決すべきである。

(二)しかして、旧規約は、その九条で、専有部分の外壁の変更は共有者全員の合意がなければすることができないとし、一五条、一六条で、各区分所有者は、専有部分を居住目的以外の飲食店等に使用することや、この営業を営もうとする第三者に専有部分を転売したり、賃貸することができないとしている。また、七条7項で、共用部分、専有部分を問わず建物の保存に有害な行為その他建物の管理または使用に関する共同の利益に反する行為をしてはならないとしている。

さらに、旧規約七条5項は、区分所有者が共同の利益を守り良好な環境を保持するため「セブンスターマンション原宿使用細則」を遵守しなければならないとしている。そして、これを受けて、旧規約と同時に作成された右使用細則(旧細則)は、各区分所有者が互いに円滑な共同生活を確保し、かつ良好な住環境の維持増進を図るため(一条)、バルコニーの改造、出窓の新設、専有部分の増築を禁止し(三条)、専有部分の模様替えは書面による理事長の事前の承諾を得なければならないとしている(五条)。

(三)以上の規定内容を通覧すると、住宅に使用されることが予定されている各専有部分について、外壁の変更、出窓の新設、専有部分の増築、バルコニーの改造が禁止され、専有部分の固有の部分ともいえる内部の模様替えさえ規制されていることが指摘できる。したがって、これらの規定によれば、各専有部分については、その物理的原状を変更することは原則として禁止されていると解するのが相当である。

一般に、各区分所有者は、建築され売り出された当初の状態ないし環境を前提として、専有部分を購入し区分所有関係に入るのであり、その後もその状態で区分所有建物が維持されることを期待するのが通常である。そして、そのような期待は合理的なものである。旧規約の規制を前段のように考えることは、このような経済取引の合理的な期待にも沿うものである。

したがって、一〇一号室については、旧規約九条、七条5項、旧細則三条、五条により、駐車場としての原状を変更することは禁止されていたものというべきである。

(四)旧規約七条8項は、区分所有者が旧使用細則に違反する行為を行ったときは、各区分所有者または管理者はその行為の差止及び妨害の排除を請求することができるとしている。したがって、各区分所有者または管理者は、一〇一号室を店舗に改造した市田よしに対し、旧規約に基づき一〇一号室を駐車場に戻すよう請求することができたというべきである。そして、規約は区分所有者の特定承継人に対しても効力を有するから(区分所有法四六条一項)、各区分所有者または管理者は一〇一号室の特定承継人に対しても同様の請求をすることができるというべきである。

5  以上のとおり、一〇一号室は専有部分ではあるが、原状変更が禁止されることにより使用目的は駐車場に制限され、その制限は、本件マンションが区分所有建物であることに照らし、他の区分所有権との関係で本質的な制約であるといわなければならない。そのような権利自体の制約を当該区分所有者に有利に変更することは、即他の区分所有者の権利に不利な影響(特に建て替えに関し)を与えるから、そのような変更には他の区分所有者全員の承諾を必要とすると解すべきである。

しかし、本件ではそのような承諾があったとは認められない。すなわち、証拠(〈証拠〉、弁論の全趣旨)によれば、一〇一号室が駐車場から店舗に変更されたことについては、他の区分所有者は内心では不満を持った者が多かったものの、法的な手段を取ることはなかったと認められる。しかし、このことによって他の区分所有者が権利内容の変更を承諾したものとは認められない。また、後に述べるように、新規約では、区分所有者は専有部分を専ら住宅として使用し、店舗・事務所・倉庫等住宅以外の用途に使用してはならないとしており(一二条)、一〇一号室の現実の使用については新規約は住宅としての使用は許容するものと認められるが、本来的に同室が有している制約まで有利に変更することを承諾する趣旨であるとは認められない。

よって、原告は他の区分所有者との関係では、区分所有権の内容としては本質的に駐車場としての権利を有するに過ぎないものというべきである。

6  ところで、新規約は、その一二条で、「住戸部分を取得した区分所有者は、その専有部分を専ら住宅として使用するものとし、店舗・事務所・倉庫等住宅以外の用途に供してはならない。」と定めている。一〇一号室がここでいう専有部分に該当することは明らかであり、かつ、新規約を制定する目的の一つが一〇一号室を含め各専有部分の使用方法について明確な定めをすることであったから、新規約は一〇一号室について店舗・事務所・倉庫等としての使用は禁止するものの、住宅としての使用は許容する趣旨であると解するのが相当である。

7  ところで、原告は、新規約を設定(旧規約を変更)した集会は区分所有法が定める区分所有者集会ではないから、新規約は法律上の規約として成立しないと主張するので、判断する。

(一)〈証拠〉によれば、次の事実を認めることができる。

(1) 旧規約上は、管理者はセブンスターマンション株式会社(現商号株式会社エイジェックセブン)であったが、同会社は旧規約一七条の報告義務を果たさず、また区分所有法三四条によって義務付けられている区分所有者集会も一度も召集したことがなかった。

(2) このような状況に対して、同会社が管理者としての義務を果たしていないとの不満が区分所有者の間に高まり、管理組合を組織し、管理組合を通じて本件マンションの管理を十分に行おうとの機運が高まった。

(3) そこで、現に本件マンションに居住している区分所有者全員(一三名)が集って、管理組合設立準備の会合を開き、管理組合を設立すること、理事長に被告佐藤を予定し、理事長を補佐する理事にも各階から一、二名を予定することを申し合わせた。そして、この経過を記載し、昭和六一年一〇月二六日午後二時から本件マンション玄関ホールで開催する設立総会への出席を呼びかける「原宿セブンスターマンション管理組合設立委員会一同」名の「管理組合設立総会のお知らせ」と題する書面を各区分所有者に送付した。

(4) 同年一〇月二六日には、区分所有者二九名のうち一八名が出席し、九名が委任状を提出し、二名が欠席した。そして、管理組合を設立する旨決議した後、理事長に被告佐藤、副理事長に被告水嶋をそれぞれ選出し、他に八名の理事を選出した。

(5) その後、当日集会を開催したことや議決に対して、集会に欠席した二名の区分所有者から異議が出されたことはない。

(二)そこで、右の事実にもとづいて考える。昭和六一年一〇月二六日の集会は、本件マンションの管理を行うため管理組合を組織し、管理組合の業務を運営する者として理事長を選任するためのものであったということができる。そのこと自体は、区分所有者の利益に沿うものであり、かつ、右集会後欠席者二名から何の異議も出されていないことからして、この二名の者もこのような集会が開催されることを承諾していたものと推認することができる。そうであれば、右の集会は開催について区分所有者全員の同意があったものというべきであるから、同集会は区分所有法三六条の規定により適法に開催されたものというべきである。

ところで、区分所有建物の管理についての区分所有法の趣旨は、このような区分所有建物の管理は、区分所有者全員を構成員とする団体である管理組合が主体となって行うものであり、その管理組合の管理業務の執行者として管理者を置くものとしていると解される(区分所有法三条)。すなわち、管理者は、管理の主体である管理組合の業務執行者であり、対外的には管理組合を代表する者として位置付けられているものと解される。したがって、区分所有者集会において、従来なかった任意の組織体である管理組合が設立され、その業務を執行する理事長が選任された場合には、特段の事情のない限り、理事長を管理者とする旨の議決があったものと解するのが相当である。本件の管理組合設立総会においても、従来の管理者の管理に不満を持った区分所有者が管理主体となるべき管理組合を設立し、その業務執行者として理事長を選任したのであるから、理事長の選任により、理事長を管理者とする議決をしたものと認めるのが相当である。そして、そのような議決に至った経過から考えて、管理組合の設立及び理事長の選任が、セブンスターマンション株式会社(株式会社エイジェックセブン)を管理者としては排斥する趣旨であることは明らかであるから、右議決は同会社を管理者から解任する趣旨を含むものであったというべきである。したがって、右設立総会の議決により、同会社は管理者から解任され、代って被告佐藤が理事長として管理者に選任されたというべきである(その後、昭和六一年一一月六日付けで、被告管理組合理事長は同会社に対し本件マンションの管理は今後被告管理組合が管掌する旨通告した。乙二六参照。)。

(三)しかして、〈証拠〉によれば、新規約を議決した昭和六二年二月一三日の区分所有者集会は、管理者である被告組合理事長が、一週間以上前に、資料を添えて会議の目的である事項を明らかにして召集したこと、旧規約を新規約に改正する議案は区分所有者及び議決権の各四分の三以上の賛成により議決されたことが認められる。

右の事実によれば、新規約への規約の改正は適法、かつ、有効になされたものというべきである。そして、一〇一号室の使用方法については、先にみたとおり、本来駐車場にしか使用できないところを、住宅としての使用を認めるものであるから、同室の区分所有者であった株式会社ニューズセレクションの個別の承諾は必要ではなく、同会社はそれ以後現実の使用においては住宅としてこれを使用することができるようになったというべきである。

もっとも、一〇一号室が権利の本来の性質として建物の専有部分と同一のものになれば、他の専有部分の権利内容(具体的には建て替えの場合)を制約することになるから、そのような一〇一号室の権利内容の変更には、それにより不利益を受ける他の区分所有者全員の承諾が必要である(区分所有法三一条一項)。しかるに、規約の改正だけではそのような承諾があったとはいえないから、一〇一号室の区分所有者が新規約により受ける利益は、現実の使用形態におけるそれにとどまるものというべきである。

8  以上によれば、本訴請求のうち、本訴請求の趣旨1、2は理由がなく、反訴請求のうち、反訴請求の趣旨1の(一)は理由がないが、同1の(二)は理由がある。

三  本件共有部分の専用使用権の有無について

原告は、本件共有部分について一〇一号室の区分所有者が旧規約により専用使用権を有すると主張するので、この点について判断する。

1  いわゆる専用使用権は、本来は共用部分ないし共有に属する敷地部分に属する部分を他の区分所有者等が排他的に使用する権利を指す。しかし、これら共用部分等は、各区分所有者がその持分に応じてそこから生ずる利益を収取するのが原則である(区分所有法一九条)(もちろん、利益と同様に負担にも任ずる。)から、他の区分所有者の使用を排斥する専用使用権が有効に成立するためには、他の区分所有者である共有者全員の承諾が必要である。

しかるところ、本件の専用使用権は、旧規約の別紙図面に記載されたものであり(〈証拠〉)、かつ、旧規約は全員の区分所有者の合意によってはじめて効力を生ずるものであるから、本件においては旧規約において一〇一号室の区分所有者に専用使用権を認めることにつき区分所有者全員が合意したといえるかどうかを検討すべきことになる。

2  〈証拠〉によれば、各専有部分の売買契約書本文には本件共有部分の専用使用権に関する記載はないが、契約書には本件共有部分に一〇一号室の専有使用権を表示する図面が添付されていたこと、旧規約の本文において専用使用権のある部分として明記されている部分は、各住戸に接するバルコニーだけであり、本件共有部分については記載がないこと、各区分所有者には旧規約の写しがそれぞれ配付されていたが、その写しに本件共有部分の専用使用権を記載した図面の添付されていないものがあること、旧規約への各区分所有者の署名捺印は、入居後管理者(売主セブンスターマンション株式会社)から求められて各自が個別で行ったこと、本件共有部分の専用使用は無償であり、その部分の公租公課を一〇一号室の区分所有者が負担することはしていないことが認められる。

3  ところで、本件共有部分は、各専有部分に構造上付属し専有部分の延長として通常専用使用部分として扱われるバルコニー(ベランダ)とは異なり、構造上または使用上専有使用部分と扱うべき必然性が認められず、かつ、他の区分所有者の負担において一〇一号室の区分所有者が特別の利益を得る関係にある。このように、本件共有部分に専用使用権を設定するのは必ずしも経済行為として合理的であるとはいえないから、そのようにするのであれば、本文に各区分所有者の負担・容認事項(旧規約七条)として明記し、不利益を受ける他の区分所有者の自由な検討に委ねるのが公正なやり方である。しかるに、右2の事実によれば、契約書や旧規約の各本文には本件共有部分の専用使用権に関する記載がないから、その権利の設定の仕方は公正でないという余地があるが、各区分所有者は売買契約を締結するときには、十分契約書を検討していると考えられるから、それを前提として行われた各区分所有者の旧規約原本への署名捺印により、本件共有部分に専有使用権を設定する合意が全区分所有者間で成立したと認めるのが相当である。

4  よって、一〇一号室の区分所有者は、本件共有部分について専用使用権を有していたと認められる。ところで、〈証拠〉によれば、新規約にはこの専用使用権についての記載はなく、それは、一〇一号室の専用使用権を認めない趣旨であると認められる。しかし、従来区分所有者が有していた権利を消滅させるには、当該区分所有者の承諾が必要である(区分所有法三一条一項)。〈証拠〉によれば、規約が改正された当時一〇一号室の区分所有者であった株式会社ニューズセレクションは、その集会における議決権の行使を集会議長に委任する委任状を提出していることが認められるが、それによって自らの専用使用権の消滅を承諾したとは認められないから、新規約の規定にかかわらず、一〇一号室の区分所有者である原告は、本件共有部分について専用使用権を有しているというべきである。

四  被告管理組合の反訴請求の適法性について

原告は、被告管理組合の反訴が区分所有法五七条一、二項の訴訟提起の要件を欠くから、不適法であると主張する。

しかし、〈証拠〉によれば、昭和六三年一二月四日に適法に召集された区分所有者集会において、必要が生じた場合、一〇一号室を住宅以外に使用してはならないことを求め、また場合によっては駐車場に戻すよう求める訴訟を提起することの決議がなされたことを認めることができる。

ところで、原告は、新規約一二条によって、一〇一号室を住宅以外に使用してはならない義務を負うが、規約は、建物や敷地等の管理または使用に関する区分所有者相互間の事項について定められる区分所有法三条の区分所有者団体のルールである。したがって、原告は、区分所有法三条の区分所有者団体(すなわち本件では被告管理組合)に対し新規約一二条の義務を負うことになるから、本来の管理主体である被告管理組合は民事訴訟法四六条の規定に基づき、または管理者は自ら区分所有法二六条四項の規定に基づき、その義務違反行為を予防する訴訟を提起することができるというべきである。したがって、この点から、被告管理組合の反訴請求は適法である。

また、新規約一二条に違反する行為は、他の区分所有者の生活に大きな影響を与えるから、区分所有法五七条一項が引用する六条一項の「区分所有者の共同の利益に反する行為」にも該当するものというべきである。したがって、右と同様の理由により、被告管理組合は新規約に違反する行為を予防する訴訟を同条項に基づき提起することができる(管理者は同条三項に基づき右訴訟を提起できるが、権利能力なき社団である被告管理組合も民事訴訟法四六条に基づき訴訟を提起することができると解するのが相当である。)。

よって被告管理組合の反訴請求は適法である。

五  被告佐藤及び被告水嶋の不法行為の成否について

被告管理組合が新規約を定めたことや、被告管理組合が一〇一号室を住宅以外の用途に使用してはならないと通知したことなどは、既に述べたように正当な権利行使であり、不法行為を構成しない。よって、原告の被告佐藤及び被告水嶋に対する損害賠償請求は理由がない。

六  結論

以上のとおり、原告の本訴請求のうち、本件共有部分の専用使用権の確認を求める請求は理由があるが、その他は理由がない。他方、被告管理組合の反訴請求のうち、一〇一号室の使用方法に関する予備的請求は理由があるが、その他の請求は理由がない。そして、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岩田好二)

別紙〈省略〉

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